穏やかに(下)
もとは立派な建物だったであろう廃墟。 周囲には何匹もの犬が居て、地面に伏せて眠っていたり、数匹が集まってじゃれ合ったりして過ごしていた。 不意に伏せていた犬の耳がピクリと動き、うっすらと目を開ける。 少し遅れて他の犬たちも動きを止め、顔を上げた。 警戒しているわけではない。...
穏やかに(上)
それはまだ西ブロックで過ごしていたときのこと。 紫苑に書棚の整理を頼んだのは失敗だったかもしれない。 ネズミが少しばかり後悔したのは、片付けを始めてからしばらくしてからだった。 かれこれ二時間以上は経っただろうか。 「紫苑。少しは休憩したらどうだ?」...
by your side
後悔するのは、人間という生き物だけである。 すなわち、猫は後悔しないのだ、と。 いつ、どこで読んだ評論文だったかは、よく覚えていない。壁の中にいる時だったのか、はたまた西ブロックに来てからこの部屋で見つけたのか。 自分の状態は思い出せないのに、読んだ内容だけははっきりと覚え...